視高の体感 床・庭・畳
~ Flexible Style Living and Dining
ユカザとイスザ
明治期のこと・・・日本住宅史において大きなテーマが持ち上がった。「ユカザとイスザ」である。西洋文化を受容した日本・・・靴を履いたまま家に上がり、椅子に座りテーブルで食しベッドに寝る・・・人々の「とまどい」がどれほどのものであったか・・・カタチを受け容れてもココロが追従しない。必然的に和洋折衷スタイルが日本のスタンダードとなっていった。ここで研究者が注目したのが「視線の高さ」だ。見上げること、見下ろすこと・・・それはプライドの問題でもある。上下関係を生まないよう床高を調整することで、畳目線(ユカザ)と椅子目線(イスザ)を等価にすべき計画がなされた。その中にあって珠玉の名作とされるのが藤井厚二氏設計の「聴竹居」である。この住宅は聴竹居にも敬意を払いつつ計画されている。
ダイニングとリビング
まず、「自分たちが必要としているものは何か?」についてヒアリングが繰り返された。「あたりまえ」とされる事に関しても還元して思考した。もちろんスペースの問題もある。駐車スペース、庭、リビング、ダイニング、キッチン・・・これらを南北に並べた場合、「何か」をスケールダウンする必要があった。話を進めるとダイニングとリビングが機能共有できそうだという話になった。もう一歩踏み込んで、「ダイニングテーブルを置きますか?」という問いに対し、クライアントから「タタミの上で食事をしたいです」という回答があった。ユカザ中心・・・この視線を基として庭とLDKを連携する主空間が展開される。
庭と畳と卓袱台
意外と知られていないが、「卓袱台(ちゃぶ台)」は近代に登場したアイテムだ。江戸期は「銘々膳」が一般的であった。温泉旅行で体験する あのスタイルだ。当時、家長制の象徴とされたこの食事スタイルは「改革されるべき」ものであった。いまだテーブル・ダイニングが確立されない建物空間における「次の一手」こそがちゃぶ台・・・ユカザで眺める庭の景は格別。木々と対等に語らうことができる。タタミや濡れ縁の触感ともあいまって、身体を家に置きながら心は山野に放たれる。庭が時と季節を住まい手に知らせ、イメージは無限に広がる。庭とは木々とは自然とは、本当にありがたいものである。そして畳は、卓袱台、カフェテーブル、座布団、座椅子など多様な家具を受容する日本家屋の長所たるフレキシビリティを表現するものである。
そして本とともに
2階には「読書室」が用意された。心安らかに文字を追い続ける空間の三方向には造り付けの書棚がある。また正面には、まんべんなく陽光を届ける横長の窓と深めの軒・・・コックピットのようなデスクエリアは床を30センチ下げ、没入感を演出している。また、本棚を隠し扉として造りこんだその先には寝室が・・・ウィットに富んだ空間連携の好例である。
庭と環境を味わう1階、くつろぎながら知を愉しむ2階・・・ここには日々の暮らしに充足を見出す「夢と希望」がある。
鳥のさえずりとともに・・・
庭園設計施工:庭工房 安部