上階に暮らす
~ Live on the upper floor along the river
川との出会い
はじまりは「川沿いに家を建てたい」という電話だった。土手の高さは約3m。桜並木のある川を背景に建つイメージが、すぐに浮かぶ。この風景を感じながら暮らしたい・・・クライアントの認識も同じであった。「上階に暮らすこと」・・・主空間を上に置き、そこに付帯空間を寄せることで計画が展開していった。1階にビルトインガレージ、ホール、書斎、脱衣浴室、収納、トイレなどのスペースが用意され、2階は中央にリビング、ダイニング、キッチンスペースが配される。ここを起点として洗面、寝室、クローゼット、パントリー、バルコニーへと続く。
四方にオーバーハングしたヴォリューム
広いガレージを設けること、1階よりも2階床面積のほうが大きいこと、軒先空間を望むこと・・・これらの希望によって建物は四方に張り出す形状となった。さらに、川沿いに暮らすための安全性も考慮して鉄骨造が選択された。柱の間隔(スパン)はビルトインガレージと他空間との調整によって決まり、張り出した2階ヴォリュームが軒下空間を生み出す。ここは半戸外空間・・・陽光・雨・空気を感じる「家と外界との緩衝帯(バッファーゾーン)」の存在は、日々環境を感じることができる。日本建築が保有してきたありがたい場所である。
環境に寄り添う
計画当初、クライアントから「できれば3階建も検討してほしい」旨の希望もあった。理由を聞くと、川沿いに暮らすがゆえの安全の希求であった。とはいうものの必要以上のスペースを設けることは望まない。そこで、2階バルコニーにタラップを設置することとした。屋根に上ることが安全確保のファクターとなるのである。美しい環境に寄り添って生活するため、我々は時に共生を求め、時に自らを守る方策を整えておかねばならない。すべてにおいて礼節を保つことが大切である。
空間とともに 花とともに
クライアントはフラワーショップのオーナーである。日々植物に向かい合っていることもあって、環境と生活をバランスよく保つ生活を送っている。花、木、人、建物・・・ひとつひとつが多様なライフサイクルを持って存在する。ヒト・モノ・コトを上手に整え、配し、示すことで、「おだやかに暮らす」という事の大切さをやさしく提示してくれる・・・そんな広い心を持つクライアントとの出会いによって完成した住まいである。