top of page
_LO_9489.jpg
段違いの屋根、ひとすじの光 
~ Deux toits, une lumière
二枚の屋根

敷地の前に立つと、まず目に入るのは白い壁の上でわずかにずれた二枚の片流れ屋根です。同じ方向へ流れながら、高さだけを違える・・・その段差に生まれた細い隙間に、高窓(ハイサイドライト)を並べました。屋根とは本来、雨と陽射しをしのぐためのもの。けれどここでは「光を招き入れるための装置」でもあります。角波ガルバリウムの白、樋と破風に効かせた赤褐色、バルコニーを包む木製縦格子・・・マテリアルを三つに絞り込むことで、住宅地の風景に過剰な主張をせず、それでいて一度見た人の記憶に残る佇まいとなりました。

色を文体として

室内に入ると、白い壁の連なりのなかに、深い藍色の壁が一枚だけ立ち上がります。面積にすればわずか・・・しかし、この一枚があることで、部屋という「文章」に句読点が生まれます。床の淡い色、木枠に和紙調ガラスをはめた三枚引戸のやわらかな白、そして藍。日本人が昔から親しんできた配色でありながら、どこかモダンな緊張感を保っています。谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で書いたように、私たちは明るさそのものよりも、明るさと翳りの「あいだ」に美しさを見出してきたのかもしれません。

内と外のあいだ

深く差し出した庇の下に、木の玄関扉が静かに納まっています。足元にはマツと景石・・・ささやかですが、門から玄関までのわずかな数歩に「季節」を置いたのです。日が落ちると、庇の裏と壁面を照らす灯りが玄関まわりを橙色に染め、白い外壁がやわらかな反射板へと変わります。バルコニーの木製格子も、昼は視線をさえぎる衝立として、夜は室内の灯りを縞模様に漉す濾過装置として働きます。内と外を「区切る」のではなく、幾重にも「重ねる」・・・日本の住まいが持ち続けてきた作法です。

屋根裏という余白

階段を上がると、白く塗り込めた梁が現れる勾配天井の広間、さらにその上には濃紺に塗られたロフトが待っています。天井の斜面がそのまま部屋の輪郭となり、小さな窓がひとつ、空を切り取る・・・秘密基地と呼びたくなるような場所です。一方、ハイサイドライト下の室には、造作のデスク上にキーボードとスピーカーを置きました。書くこと、弾くこと、考えること・・・ゆとりのスタジオを用意する・・・それがこの住まいの、いちばん贅沢な設計です。

bottom of page